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山口地方裁判所 昭和46年(行ウ)6号 判決 1975年10月09日

原告 岡本利一

原告 橋本林郎

右両名訴訟代理人弁護士 井貫武亮

被告 山中健三

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 満田清四郎

同 堀家嘉郎

同 平岩新吾

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告山中健三は、下松市に対して金一〇万円の支払をせよ。被告東洋鋼鈑株式会社は別紙目録記載(一)の建物を、被告株式会社日立製作所は同目録記載(二)の建物を、それぞれ、下松市に対して引渡をせよ。被告東洋鋼鈑株式会社ならびに株式会社日立製作所は、それぞれ、下松市に対して金一〇万円の支払をせよ。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のように述べた。

一、原告らは、いずれも下松市の住民である。

二、別紙目録記載(一)(二)の各建物は、公営住宅法にもとづき国庫補助金を得て建設された市営住宅であり、同法にもとづき管理、使用されなければならないのに、山中健三は、前記(一)の建物を被告東洋鋼鈑株式会社(以下被告東洋鋼鈑という)に、前記(二)の建物を被告株式会社日立製作所(以下被告日立という)に、それぞれ専属的に使用させたが、右は、入居者の公募をしなければならないとする公営住宅法第一条、第一一条の三、第一六条に違反する。

三、昭和四六年一〇月一日、下松市長は、被告東洋鋼鈑に対し昭和二八年七月三〇日付、同二九年七月一五日付の契約にもとづき前記(一)の建物を、被告日立に対し昭和二八年一一月一日付契約にもとづき前記(二)の建物を、それぞれ将来譲渡することを約したが、右各譲渡行為は、公営住宅法第二四条に違反して無効である。

四、被告会社両名は、下松市の名を借りて国の補助金を用いて自己の厚生施設として住宅を建て修繕費まで市から出させて使用し、ついに本件譲渡行為によって所期の目的を達し本件各建物の所有権を取得している。

本件譲渡行為は、また当初から公営住宅法潜脱の目的でなされた詐欺的行為であって、公序良俗に反して無効である。

五、(損害)

前記のように、下松市長が本件各建物を違法に管理、処分した結果、下松市は、次のような損害を被った。

(一)  本件各建物の建設にあたり、国庫補助金取得のために下松市が政府と交渉するのに要した費用の合計二〇万円以上。

(二)  下松市が負担した本件各建物の維持管理費用年額二九万六、〇〇〇円。

(三)  本件市営住宅の家賃収入を下松市において自由に使用することができなかったことにもとづく損害金相当額。

六、原告らは、右売却行為に対し、昭和四六年九月二二日、地方自治法二四二条にもとづき、その禁止措置を求めるため、下松市監査委員に対する監査請求をなしたところ、同委員は、監査の結果、請求は理由がないとして、昭和四六年一一月一九日、原告らにその旨の通知をなした。

よって、原告らは地方自治法第二四二条の二第一項四号にもとづき、(イ)山中健三に対し被告会社両名に違法に本件建物を使用させ下松市に蒙らせた損害金のうち金一〇万円を下松市に支払うこと(ロ)被告会社両名に対し、それぞれ、下松市に対する本件建物の一部である別紙目録記載の部分の返還ならびに、(ハ)被告会社両名が違法に本件建物を会社の厚生施設として専属的に使用して得た不当利得金のうち金一〇万円を下松市に返還することを求めるため、本訴請求に及んだのである。

なお、被告等の主張事実のうち、本件建物がもと市営住宅であったこと、下松市長が被告等主張のとおり公営住宅法による用途廃止の承認申請をしたこと、建設大臣が被告等主張のとおり補助金の返還を命ずるとともに右申請を承認したこと、山中健三が被告等主張のとおりの所要の手続を経て本件建物が市の普通財産となったこと、そして、下松市が被告等主張のとおり本件建物を各被告会社に譲渡したことは認めるが、その余の点は否認する。

(一)  仮に、昭和四六年一〇月一日付の契約が普通財産の処分行為としての譲渡であるとしても、それは下松市と、被告東洋鋼鈑との間の昭和二八年七月三〇日付および同二九年七月一五日付の契約、被告日立との間の同二八年一一月一〇日付の契約の履行というべきである。

(二)  地方公共団体の普通財産の処分にあっては、競売に付し、公正に処分されるべきところ、右売買契約は、当初の違法な契約にもとづき、複成価格に比してさえ、極めて安い価格を算定し、しかも、本来市の収入として自由に処分しうる家賃を会社の積立金として取扱い、本件契約代金として下松市への支払にあてており、加えて、その家賃たるや昭和二八年九月以来一切増額されていない。

このため、被告会社両名は当初の違法な契約にもとづく本件売買契約により下松市に対し請求原因五に記載した損害を与えており、被告山中健三は右事情を十分知りながら、あえて本件売買契約をしたものである。

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

一、請求原因一は認める。

二、請求原因二は認める。

三、請求原因三につき、原告ら主張の建物の譲渡がなされたこと、原告主張の日時に原告ら主張の各契約がなされたことは認めるが、その余の点は否認する。

本件建物はもと市営住宅であったが、下松市長は、昭和四六年八月二七日、山口県知事を経由して建設大臣に対し、公営住宅法第二四条三項の規定により用途廃止の承認申請をした。

右申請に対し、同年九月二一日、建設大臣は国庫補助金二、四五七万八、〇〇〇円を同年一〇月一日までに国に返還することを命じ、公営住宅の用途廃止については、これを承諾した。そこで、下松市長は本件各建物を市営住宅から除外するための条例を市議会に提出し、同年九月二一日に議決されたので、同年九月二五日、国庫補助金を返還し、ここに右九月二一日付をもって本件各建物は市営住宅ではなく、市の普通財産となったのである。よって、下松市は、同年一〇月一日、普通財産である本件各建物を被告会社両名に譲渡したのである。

四、請求原因四は否認する。

なお、住民訴訟は、監査前置主義をとり、しかも監査請求は当該対象行為の日または終了後一年を経過したときは、これをなしえないのであって、原告らの監査請求は、昭和四六年九月二二日付であるから、本件訴訟の対象となるのは、昭和四五年九月二二日以降違法な行為に限られるべきである。しかるに、本件建物の払下げが昭和二八年当時の契約の履行としてなされたものであるから違法な処分であるとの主張は失当である。

五、請求原因五は否認する。

六、請求原因六は認める。

七、なお、下松市と被告会社両名との間に被告ら主張の契約がなされたこと、本件各建物が公営住宅法所定の入居者選定方法に適合しない管理運営の事実があったことに関する原告等の主張事実は認める。

昭和二六、七年頃から、国は、木造による公営住宅の建設にかえ、耐火構造住宅の建設を促進する方針をとっていた。しかし、この場合には建設費がかさみ、それにつれ算出家賃も高額になり、果して家賃負担にたえられる入居者を確保できるか等の難点があり、容易に耐火構造に切換えできなかった。

そこで、下松市は、他の地方都市の例と同じく、事業会社と提携し耐火構造住宅の建設を計画し、被告会社両方から長期無利息の貸付けを受け、国庫補助金とあわせて本件各建物を建設し、当時一応市営住宅に入居していた被告会社両名の従業員をここに移転せしめ、一般公営住宅の運営に相当の余裕を生ぜしめ、一般市民の住宅難緩和に役立ててきた。

このように、本件各建物の建設は被告会社両名から長期無利息の融資を受け、しかも被告会社らの所有敷地上になしたため、入居者を被告会社従業員に限定するという市営住宅の管理としては法に適合しない管理をせざるを得なかったが、間接的には一般市民の住宅難緩和と住民の福祉に多大の利益をもたらすものとして、関連予算条例を議決した。

もとより、公営住宅法の趣旨からいって、このような変則的な管理運営が望ましいことではないが、当時、右のような大乗的見地からみて真にやむをえなかったものであり、当初の契約が反社会性の強い公序良俗違反にあたるものではない。

かかる変則的管理運営は是正されるべきではあるが、本件各建物は被告会社両名の所有地上に建てられ、入居者は被告会社両名の従業員のみで、同一団地内に被告会社両名独自の社宅も並んで建設されているなどの事情から、市営住宅としたまま管理運営方法の是正のみによってかかる問題を解決することは困難であった。

そこで、根本的解決をはかるべく、国家補助金を返還し、市営住宅としての用途廃止の承諾を得た上で被告会社両名に譲渡したのである。

下松市は既に公営住宅ではなく普通財産になった本件各建物を適法に被告会社両名に譲渡処分したのであるから、右譲渡行為は何ら公序良俗に反するものではない。

八、(イ) 家賃を当初以来増額していないことに関する原告等の主張事実は認める。

しかし、数回家賃条例改正の際議会で審議した結果据置いたものである。

反面、下松市が被告会社両名から借用した地代も一切増額されておらない。

(ロ) 本件各建物の敷地は借用当時権利金の授与もなく、また敷地の範囲も特定しておらないので借地権の設定があったか疑問である。

その上、この権利は譲渡・転貸が特約により禁止され、入居者が占有中の各建物では競売に付してみても落札者がえがたいと思われたので、処分にあたり競争入札に適しないものと判断し、地方自治法施行令第一六七条の二、一項一号、二号により随意契約により処分した。

(ハ) 本件建物は建築後二〇年近くを経過し、土地の利用関係も使用貸借に類するものであるから、その処分価格は、決して安いものではなかった。この点処分当時の適正価額を二、七一二万八、〇〇〇円と不動産鑑定士は鑑定している。

(ニ) 下松市は国庫補助金二、四五七万八、〇〇〇円と被告会社両名からの借入金二、七七二万九、〇〇〇円のみによって、市自体の出捐なくして本件建物を建築し、被告会社から受取った家賃から前記地代と同額定額の修繕維持管理費並びに保険料を差引いた残額を積立て、その元利合計は譲渡期日現在で、金三、七五五万円に達していた。

そこで、被告会社への譲渡価格六、五五〇万円より、被告会社両名からの借入金二、七七二万円と国庫への返還金二、四五七万八、〇〇〇円を差し引けば、差引一、三一九万三、〇〇〇円が下松市に残ることになるので、下松市は本件建物の建設、管理、譲渡を通じて下松市に対し金銭上の利益を与えこそすれ、何らの損害を与えていない。

(ホ) 本件各建物を一般の公営住宅として建設する場合には、市費負担分二、七七二万九、〇〇〇円を金融機関からの借入れである起債でまかなえば、これに対し年六、三パーセントの複利計算による利息金五、二七七万円を右元本に加えた金八、〇四九万九、〇〇〇円を金融機関に返済しなければならないのであるから、家賃積立金三、七五五万円(内利息相当分一、四三六万円)の収入を得たとしても、差引四、二九四万九、〇〇〇円が市の負担となる。

本件各建物を一般の公営住宅と同様な方法により建設し、家賃を毎年度の収入とし、適正価格で入居者に払下げたとするならば、下松市は八、〇四九万九、〇〇〇円の支出に対し、適正価格二、七一二万八、〇〇〇円に家賃合計三、七五五万円を加えた六、四六七万八、〇〇〇円の収入を得たことになり、結局、差引一、五八二万一、〇〇〇円が下松市の負担となる。

このことからみても、本件のごとき形式により市営住宅を建設し、家賃積立金を払下金の一部に充当しても、市に損害を与えることはない。

従って、原告らの被告らに対する本訴請求はすべて失当である。

証拠≪省略≫

理由

先ず、被告適格について検討する。

本件記録中、本件訴訟の当事者として、「被告下松市長山中健三」または「被告下松市長」という記載があり、その住所も下松市役所の所在地が表示されている。

元来、本件のように地方自治法第二四三条の二第四項に基づく訴は、当該団体の職員が団体に損害を与えたのに対し、その住民が団体に代位して提起するものであり、その団体の損害の回復のため、その損害を生ぜしめた個人の責任を追求するところにその目的があると解されるので、前記の訴の被告は、公共団体の機関たるその職員ではなく、個人としてのその職員であるといわなければならない。従って、本件訴訟の当事者の表示としては、下松市長という肩書は不必要であり、住所も個人の自宅の所在地を記載すべきものであるが、便宜上、右のような記載のままでも差し支えなく、本件訴訟は、下松市の機関である下松市長山中健三ではなく、個人としての山中健三を被告として提起したものとみることができるから、被告を誤ったものであるとはいえないと解する。

次に、本案について判断する。

一、原告らが下松市の住民であること、原告らは、被告山中健三が下松市長として市の財産である別紙目録記載(一)の建物を被告東洋鋼鈑株式会社に、同目録記載(二)の建物を被告株式会社日立製作所に、それぞれ、譲渡するのは違法であるとして、その禁止措置を求めるため、地方自治法第二四二条に基づき、昭和四六年九月二二日、下松市監査委員に対して監査請求をなしたこと、同委員が監査の結果、請求は理由がないとして、昭和四六年一一月一九日、原告等にその旨の通知をなしたこと、昭和四六年一〇月一日、下松市長が前記(一)の建物を被告東洋鋼鈑株式会社に、前記(二)の建物を被告株式会社日立製作所に、それぞれ、譲渡したことは、当事者間に争いがない。

そこで、被告山中健三が下松市長としてその余の被告らとの間においてなした本件建物管理、処分行為が違法かどうかについて検討する。

原告らは、本件建物の処分行為の違法事由として、昭和二八年当時の契約の履行であるとし、右契約の違法を主張する。これに対して、被告らは、原告らが監査請求をなした時期からみて、昭和二八年当時の契約は監査請求の対象となり得ないから、本件訴訟の対象にもならないとして原告らの右の主張を論難する。けれども、たとえ、監査請求の対象にならない事項であっても、訴訟において、その対象たる行為の違法事由として主張することが許されないと解さなければならない理由はない。従って、被告らの右の主張は失当である。

下松市が昭和二八年七月三〇日、昭和二九年七月一〇日の二回にわたり被告東洋鋼鈑株式会社との間において、昭和二八年一一月一〇日、被告株式会社日立製作所との間において、それぞれ、被告会社は、下松市に対し公営住宅法に基づく住宅建設のために返済期間長期、無利子の建設費を貸し付ける、下松市は、右金員と国庫補助金とあわせて被告会社所有敷地内に住宅を建設する、住宅建設工事は公営住宅法に抵触しない限度で被告会社の希望にそい実施する、住宅施設は全部被告会社に利用させる、家賃は住宅施設の譲渡を受けるまで市条例に定める方法で被告会社が支払う、住宅施設の修繕維持管理費は下松市が支払う、住宅施設の耐用年数の四分の一を経過したときは住宅を遅滞なく被告会社に譲渡する、第三者に譲渡等処分をしてはならない、右譲渡に際しては貸付金及び家賃の積立金を譲渡代金に充当する旨の契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

右の事実によれば、右契約による管理が、公営住宅法第一条、第一一条の三、第一六条、その処分が同法第二四条にそれぞれ違反するものであることは明らかである。

もっとも、下松市長が昭和四六年八月二七日山口県知事を経由して建設大臣に対し公営住宅法第二四条第三項の規定による公営住宅としての用途廃止の承認申請をなしたこと、右申請に対し、昭和四六年九月二一日、建設大臣が右建物建設のため支出した国庫補助金二、四五七万八、〇〇〇円を同年一〇月一〇日迄に国に返還するよう命じ、且つ、右申請の公営住宅の用途廃止を承認したこと、そこで、下松市長が右建物を公営住宅から除外するため、「下松市営住宅設置条例及び下松市営住宅家賃条例の一部を改正する条例」を市議会に提案し、右条例は、同年九月二一日議決されたこと、下松市が昭和四六年九月二五日建設大臣より返還を命ぜられた右国庫補助金を国へ返還したことは、当事者間に争いがない。

右の事実によれば、本件建物は、昭和四六年九月二一日をもって公営住宅ではなくなり、その後は、もはや、公営住宅法の適用を受けない普通財産となったものであり、同年一〇月一日、下松市が本件建物をそれぞれ各被告会社に譲渡したのは、たとえ、昭和二八年または昭和二九年当時の前記契約の履行としてなされたものであるとしても、民法第一一九条但書の法意に準じ、新たなる行為をなしたものと解するのが相当であり、従って、下松市長の本件建物の管理ならびに処分行為を違法とすべき理由はない。

二、また、原告等は、本件建物の譲渡は当初から被告等の間に計画されたものであって、公序良俗に反すると主張するけれども、≪証拠省略≫によっても原告らのこの点に関する主張事実を確認するに足らず、他にこれを認め得る十分な証拠が存しない。かえって、前記認定事実に≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

昭和二八年頃は下松市の財政は赤字続きで自主再建という異例な措置をとり、職員の昇給にも支障をきたす状況にあった。

当時、国が国庫補助金を出す公営住宅の建設を山口県に割当たが、山口県は割当個数を消化するために下松市にも割当をしてきたが、国庫補助金は二分の一であったので、残りの二分の一は市費で建設しなければならなかった。しかも、これら公営住宅を従来の木造にかえ鉄筋で建設することを国は奨励してきたが、鉄筋で建てると従来の木造にくらべ建設費は高くつき、それにつれて算出される家賃も高くなることはさけられなかった。

右のような事情で、当時の下松市は財政上市費負担の二分の一を捻出することが困難な状況にあったので、市費負担分の二分の一を被告会社両名から無利息で借用し、本件市営住宅の市費負担分にあてた。

右金員の借入れに際し、本件各建物の敷地は被告会社両名が下松市に極めて低額の地代で貸付けるかわりに、本件各建物を被告会社両名の従業員をのみ入居させること、耐用年限の四分の一を経過したときは建設大臣の承認を得て譲渡すること、第三者に対し譲渡その他の処分をしないこと、被告会社両名からの貸付金および被告会社両名の納入した家賃の積立金の全額を被告会社両名それぞれの譲渡代金に充当すること、という条件が付せられた。

このように本件市営住宅の建設は、公営住宅法に違反する変則的な方法をとったが、それは、当時の下松市の財産状態からすれば、割当分の市営住宅を建設するにはやむをえない処置であるし、本件市営住宅に被告会社両名の従業員を入れることにより、その余の市営住宅にも多少の余裕が生じるであろうとの配慮がなされたのである。

しかし、かかる変則的な市営住宅の監理運営は是正して正常な運営にもどすべく、昭和四二年以降下松市は、数回、被告会社両名と適正な運営にもどすべく交渉をなしたが、本件市営住宅の建設に際し被告会社両名から市費負担分を借受けたいきさつ、土地は被告会社両名のものであること、本件市営住宅の周囲には被告会社両名独自の社宅が建ち並び、付近一帯の居住者はことごとく被告会社両名の従業員であるとの理由で、一般の市営住宅にもどすには無理があるとして、被告会社両名は交渉を拒否した。

そこで、かかる変則的な管理運営を是正するためには、本件市営住宅の用途を廃止するより方法はない、との結論に達した。

下松市長が山口県知事を経由して建設大臣に対し昭和四六年八月二四日、本件公営住宅の用途廃止の申請をなした。右申請書には、用途廃止後は企業へ移譲する旨の記載がなされていた。右申請に対し、昭和四六年九月二一日、建設大臣から用途廃止の承認および補助金の返還命令があった昭和四六年九月一七日、本件各市営住宅の用途廃止に伴う下松市営住宅設置条例および下松市営住宅家賃条例が改正された。昭和四六年九月二三日、下松市長は国に対し国庫補助金の返還をした。かくして、本件各市営住宅は、昭和四六年九月二一日付で公営住宅の用途が廃止され、下松市の一般財産となった。用途廃止後の本件各市営住宅を下松市の一般財産として被告会社両名に譲渡するための承認が下松市議会でなされた。そして、前記のとおり、右各建物が被告会社両名に譲渡された。

以上のとおり認められるに過ぎず、原告等の右の主張は採用できない。

三、そうしてみると、被告山中健三は、本件建物の違法な管理ならびに処分によって下松市に損害を与えたものとはいえないし、また、右処分の相手方である被告会社両名も、また、本件譲渡行為によって本件建物を取得したものである以上、法律上の原因なくして不当にこれを利得したものとはいえない。

従って、被告山中健三が下松市長としてなした本件建物の管理ならびに処分が違法であるとの主張を前提とする原告等の被告等に対する本訴請求は、もはや、この上の判断を加えるまでもなく、すべて失当であることが明らかであるから棄却を免れない。

四、よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱田治 裁判官 山本博文 新谷勝)

<以下省略>

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